リンジー・スターリング『Crystallize』

 
 アメリカの踊るヴァイオリニスト、リンジースターリングの曲『Crystallize』。雪原の中でバイオリンを弾く姿は幻想的で、You Tubeでの視聴回数が6000万回を越えて、2012年のトップ8位に入ったのだそうである。
 
 この曲がとても印象的だったのは、その演奏の幻想的な美しさにもあるが、それとは別にヴァイオリンを民俗楽器として使うのがアメリカにもあったことにショックを受けたためでもある。
 
 この曲はポップス(何でもダブステップと言う音楽ジャンルらしい)としてヴァイオリンを使っているわけだが、この源流はヴァイオリンを民俗楽器として使う所にあるようである。踊りながらヴァイオリンを弾くのはそのスタイルの流れだと思われる。民俗楽器としてヴァイオリンを使う時には「フィデル」と呼ばれて、区別されるものらしい。
 
 このフィデルについては、以前沖縄を舞台にした映画『ナビィの恋』において、アイルランド出身のフィデル弾きの男性が登場して、力強いリズムで踊りながらダイナミックにヴァイオリンを弾く姿に強い印象を受けた記憶がある。
 
 その時フィデルについて知ったのだが、男性の力強いステップとヴァイオリンの旋律が何とも言えぬ調和をもっていてすばらしかった。それで男性的なイメージを持っていたのだが、このリンジースターリングの演奏を聞いたら、また女性的な優雅で幻想的なフィデルもあるのだと知ったのである。
 
 それと、『ナビィの恋』でフィデルアイルランドの伝統的な民俗音楽かと何となく思っていたのを、このリンジースターリングの曲で違うことを知らされたこともある。調べた所、アメリカでもヴァイオリンを民俗楽器として使うことがあったもののようだ。その流れで、ポップスとしてヴァイオリンを使うこのような曲が出てきたものだろう。
 
 ちなみにダブステップと言う音楽ジャンルもイギリス発祥で、移民の多い南ロンドンで発生したものらしい。そのような音楽ジャンルの混合から、リンジースターリングの音楽は生まれているわけで、とても興味深いカルチュラル・スタディ的な脈絡を持っているものと考えられるのである。