安室奈美恵と張恵妹

 
 安室奈美恵張恵妹(台湾の原住民歌手、A-MEI)の並行性と共通性とに関しては、以前からとても深い関心を抱いている。この2人の音楽を比較考察したならば、東アジアにおけるポストコロニアルな数多くの文脈が明らかとなってくるはずである。また戦後の日本と台湾の現代史とを深く背負った音楽であることでも二人は共通している。
 
 安室奈美恵が、戦後沖縄の米軍による支配という文脈を深く背負っていることは疑いない。安室奈美恵はクオーターである。つまり安室奈美恵の母親がイギリス軍人と祖母との間に生まれたハーフだったということである。祖母は子供が生まれないことを理由に離縁され、その後米軍基地で働き、そこでイギリス軍人との間に生まれた子供が安室奈美恵の母であったわけである。
 
 ”混血児”として戦後の沖縄で生きた安室奈美恵の母親は、差別や偏見を受けながらも、強い意志でそれを乗り越えていく。昼は米軍基地、夜はスナックで働きながら3人の子供を育てた後姿を見て、安室奈美恵は育った。奈美恵が小学生の時から歌手として身を立てようと決心して、沖縄アクターズスクールまで1時間かけて歩いて通ったという話は、彼女にも強い母たちの姿が刻まれていることを示している。
 
 このような”混血児”としての安室奈美恵と、”原住民”歌手としての張恵妹とを交錯させて、東アジアの現在をあぶりだしたならば、とても興味深い論が可能となることと思われる。二人は強い親和性と共通性とを持っていて、初期には張恵妹安室奈美恵の影響をも強く受けている。
 
 しかし張恵妹は、2009年だったか『阿密特』というアルバムで、原住民としてのアイデンティティを前面に出し、いわばそれまでのアイドル歌手としての自らのイメージを覆そうという試みを行っている。この原住民としてのアイデンティティは、台湾の現在の原住民政策や原住民運動、あるいは台湾人アイデンティティと関連したものであり、台湾の現代史の文脈を背負ったものだと考えられる。
 
 ”混血児”と”原住民”と。この二人の音楽を交錯させたいのだが、まず当分無理なので、誰か取り組んでくれる方はいないでしょうか?