中国人名の現地読みに関して(藤野彰・読売新聞編集委員)

 
 http://www.toho-shoten.co.jp/export/sites/default/toho/toho366-fujino.pdf
 
 中国人名の現地音での読みに関しては、以前から気になっていたが、実は朝日新聞とその他の新聞でのポリシーに差異があって、朝日新聞のみが現地音表記をとっているらしい。その他の新聞は日本語読みで、例えば「胡錦濤(こきんとう)」「馬英九(ばえいきゅう)」という表記法をとっている。
 
 この問題に関しては前からけっこう気になっていたのだが、例えば韓国との間ではいずれの新聞においても相互主義によって1980年代に現地音での読みを導入し、それが現在では定着している。かたや中国との間では、中国でも日本でもそれぞれの言語での読み方が慣習的に使われており、いまだにテレビ放送でも日本語読みが主流である。
 
 この問題に関しては長期的には現地音読みに習うことが合理的であるし、求められていると考えられる。なぜなら、日本語だけで通用する読み方は、意思疎通において問題が多いからである。たとえば英語圏などでも「胡錦濤(フージンタオ」、「馬英九(マーインチュウ)」という表記で定着している現状において、日本語のみの呼称に固執することはかえって意思疎通の障害となるおそれがあるだけでなく、日本語読みと現地音読みとの二重の手間をかけなければならないことになるからである。
 
 韓国においては、すでに10年位前から中国人名の現地音読みをしており、新聞・テレビでも現地音読みが定着している。地名に関しても北京(ペイチン)、杭州(ハンジョウ)と現地音を使っていた。最初にどんな反応があったかは分からないが、それによる大きな混乱はないもののようである。やってみればそのうち定着していくのは当たり前のことであるし、早いうちに日本も現地音主義に行くべきではないだろうか。