未来的な社会としてのオーストラリア

 
 先日、5泊6日の日程でオーストラリア・シドニーを訪れてきた。訪問の模様はいつか写真などを交えて整理したいものだが、とにかく印象的だったのは多文化的・多人種的なシドニーの街のありようだった。オーストラリアが以前の白人中心主義的な路線から多文化主義に転換したことは知識としては知っていたものの、それを実地に見てみるのはとても刺激的で興味深い体験だった。
 
 ことにアジア系移民が本当に予想を越えて多く、どこに行っても中国人、韓国人たちがいたことが印象的であった。われわれ一行は韓国語ができる者が多かったので、所々で韓国人たちにお世話になった。特にワーキングホリデーで来ている若い学生たちが目立った。それに比べると日本人は企業の駐在員などが多いらしく、シドニーの街中でお目にかかることは少なかった。
 
 以前、横光利一芥川龍之介に「君は上海をみておかねばならない」と勧められて上海に渡り、その後長編小説『上海』を書いている。その伝で行けば、今の世界、少なくてもアジアの未来を見ておくためにはシドニーに行ってみるべきだ、と言えるかもしれない。オーストラリアが多文化主義に転換し、それがどのような効果と結果をもたらしたのか、について見ておくべきだという意味でである。
 
 日本は早晩、移民の受け入れに舵を切り、多文化社会化する方向に進まざるをえないことははっきりしている。おそらく2010年代のうちにも徐々に移民を受け入れる方向へと進んでいくことだろう。そうすればオーストラリアの多文化主義化の道を約50年遅れで日本も経験していくことになることだろう。移民社会化、多文化主義化は多くの日本人の心配しているよりもずっとよい効果を日本社会に与えるはずである。何よりも少子高齢化はこの移民社会化によって改善されることだろう。シドニーの街の雰囲気は若々しくロマンチックなものだったが、それは若い移民たちを多く受け入れたことによっているのは明らかである。日本も移民の受け入れによって多くの経済的・文化的な利点を発見すれば、21世紀の日本は多文化主義化に向かうことは間違いない。それは日本の希望であり、生き残るための道でもあるのである。
 

※ オーストラリア文学のいま――多文化社会のなかのオーストラリア文学
    http://culture.australia.or.jp/articles/yasue_arimitsu/