『明日、ママがいない』

 
 水曜10時からのドラマ『明日、ママがいない』(第8回)を見て、深く情動を動かされた。おそらくドラマを見て、これほど情動を動かされたのは久しぶりのことだ。
 
 来週の第9回が最終回となるので、これまでの様々な登場人物たちのエピソードや葛藤が収束に向かっていく回となるわけだが、それにしても劇的な展開が続く回となった。主要な児童施設での人物たち――ポスト、ピア美、ドンキ、ボンビの4人――がそれぞれ収束に向かってドラマティックな展開を見せる。一人一人の人生の経緯や、里親との関係、実の親との関係、それらが丁寧に描かれて、4つのドラマが並行して展開する。そこに施設のボスである魔王とアイスドールの事情も加わって、かなり複雑なストーリーが同時並行して進むことになっているのである。
 
 4人の主要な人物たちのストーリーは、どれも丁寧に同じような重みをもって描かれていて、それぞれ心に迫るものがある。ポスト(芦田愛菜)が主人公級と言ってもいいが、他の3人のストーリーと子役の演技もそれぞれ印象深いものである。今回、特に中心となったのはピア美とドンキの2人の事情だった。どとらも深く心を動かされたが、ピア美がピアノコンクールの全国大会に出場して、そこに見に来た実の父親と再会する場面は鳥肌が立つほどだった。
 
 ピア美はもともとお嬢様育ちの子でピアノが特技なのもその頃ピアノを習っていたためだが、両親は事業に失敗してしまい蒸発、施設に入ることとなる。施設でも他の子とは違いプライドが高く、自分の美貌とピアノの才能を常々鼻にかけている。ただ、ピアノコンクールにもしかしたら父親が来るかもしれないと気にかけ、ポストに探してくれるように頼む。父親は実はピア美のことをいつも気にかけているのだが、しかし貧しい生活の中に彼女を巻き込むことを良しとしないで、コンクールでただ遠くからピア美のことを見ているだけだった。
 
 ピア美がいつもプライドを鼻にかけている裏で、実は心に深い傷を負っていたことは明らかである。彼女がピアノを一生懸命に練習する内心には、もしかしたら実の父が見に来てくれるかもしれない、という一抹の期待があったことが分かる。コンクールの直前、ポストが実は父親が前回のコンクールに来ていたことを告げると、彼女の心は動揺する。彼女の順番となり、ピアノを演奏するが、会場のどこかに父親がいることを感じているピア美はとうとう演奏を中断してしまう。彼女はステージに立って、泣きじゃくり、「パパ」と呼びかける。「パパと一緒がいい! パパー!! パパ―!!」 

 
 この場面が感動的だったのは、それまでピア美が心の傷を表に出すような子ではなく、いつもプライドが高かったのに、それをかなぐり捨てて、皆のいるのも忘れて会場のどこかにいる父親に向かって叫びだすその瞬間の迫力にある。心の一番奥に隠してきた深い傷を、ついに全身で表し泣きじゃくるピア美の演技には鳥肌が立った。
 
 もう一つ、今回の回ではクライマックスがあって、ドンキの実の母親が突然施設にやってきてドンキを引き取ると言いだすシーンだが、そこに里親が現れて、ドンキは葛藤に陥る。実の母親は、法的にも常識的にも立場が強いわけだが、魔王は彼女の前で土下座し、頭を下げる。「私はコウノトリです。間違って子どもを配達してしまうこともあるのです。」と言って、親を子供に選ばせるよう懇願する場面である。
 
 ここには実の親と里親との間の関係に対するメッセージが託されている。事実の親と真実の親、という言い方がされていた。愛情、さまざまな家族の形、里親と言う家族のあり方、そんなドラマのメッセージが凝縮された場面であった。おそらく今回の放送がもっともドラマの伝えようとしていたメッセージ性がよく現れていた回だったのだと思う。最初の騒動がなければ、もっと違った形でこのクライマックスが描かれたかもしれないと思うと、残念でもある。もともとのバージョン(構想)の方をぜひ見てみたいものである。