情けないニュース

 
 この数日、情けないニュースばかりが続き、たいへん気が重い。橋本徹氏が慰安婦問題について発言し、あろうことかアメリカに対して日本の風俗を活用するようにとお説教する始末。聞くのも見るのももう嫌なのだが、どうしてもこの「現象」については考えざるをえず、ついついインターネットをあちこち見てしまう。
 
 橋本発言が放っておけないのは、これが男性の性欲やジェンダー関係についてのあけすけな「正論」を語っているように一見見えるからだ。何と表現するべきか分からないが、俗流唯物論的な真実、あるいはマッチョなこの国の主流的なジェンダー観を突いているように見えるからだ。
 
 事実、この橋本発言に関してマッチョな主流は擁護するような発言を行っている。石原慎太郎しかり、東浩紀しかり、である。マッチョなアメリカがこのような発言を否定するわけはないと、沖縄のアメリカ軍司令官に日本の風俗活用を言ったものの、その発言は凍りついたような反応をされたというのは興味深い。
 
 事態をさらに暗鬱にさせるのは、ちょうど韓国でも政府高官によるセクハラ事件が起こり、その事件に対する対応や弁明が、橋本発言と同じような水準と構造を見せているからでもある。同じような低次元の事態が、日本でも韓国でも起こっている。このことは何を示しているのだろう。
 
 韓国の事件は政府の広報官であるユン・チャンジュン氏が、パク・グネ大統領の訪米に同行し、その訪米中にインターンとして付けられていたアメリカ国籍の女性にセクハラをした、というものである。この事件がやはりアメリカとの関係で大事件となったこと、そしてマッチョな韓国の主流の意識構造をよく表している点で、橋本発言と多くの点で共通している。
 
 いずれも男性の性欲と、その処理を当然のこととして前提し、その自国内では当然の処置としてある文化的コードがアメリカとの関係で事件となったという点で共通している。橋本発言の方が、より確信犯的で、理念的で、韓国の事件はより文化的なコードに関する無意識的な部分を表しているとしても、である。
 
 日本と韓国とがともに昨年の選挙で保守政権が成立したこととこのことは関わっているだろう。この日本と韓国とでの右派政権の成立は、皮肉な意味で東アジアの同時性と共通性をもたらしたのである。韓国が政府系のセミナーから日本をはずし、日本がそれと対抗するように北朝鮮に特使を送って、腹いせするようなそんな泥試合のような同時性が成立したのである。
 
 この東アジアの同時性は歓迎するべきことではない。これまで韓国と日本とは時差を持っていたために、互いに参照することができたし、閉塞に対する出口の役割をできたのに対して、同時右派政権による同時性は、その時差を埋め、同時閉塞をもたらしたのではないかという気がする。
 
 何よりもこの東アジアでの同時右派政権の成立は、両国のマッチョな部分を活性化したようである。そのために主流的なマッチョな性意識が前面に出てきたのだろう。今回の両国の事件はまだまだ序の口で、憲法改正に向かって日本が奔走するならば第2、第3の泥試合が発生することは目に見えている。
 
               ☆
 
 情けないのはこのようなマッチョなジェンダー意識が、橋本や韓国のユン氏に突出しているだけで、実は日本と韓国の多くの男性、そして国家構造内に内在しているからだ。
 
 橋本氏の発言がだから主流から擁護され、ユン氏の事件が更迭という国内的な処置で解決されようとしているのは、理由があると言うべきである。いずれもドメスティックな(国内的な)場では擁護されるべき、大目に見られるべき種類の問題として扱われているわけだ。
 
 女性の身体が、男性の性欲、あるいは家族維持、あるいは国家意志による客体として存在し、その管理下にある(べき)という点で、日本と韓国のマッチョな主流の意識は共通し、共謀しているのである。
 
 このような私的な領域への、主流マッチョ派の公的な管理主張は、ほとんどパワハラやセクハラの性格を帯びている。この間、母子手帳に変わる「女性手帳」なるものを少子化対策として設けるべきというニュースがあったが、あれも同じ発想である。要するに女性の身体や生殖というものは公的な管理の対象となるべきであるということである。
 
 この発想がひどく前近代的なものであるのは言うまでもない。少子化対策に名を借りて、またもや戦時期のような生めよ増やせよという身体管理が企てられているのである。
 
 いい加減、このようなジェンダー意識が国家的なセクハラであり、パワハラであるということに声を上げるべきではないだろうか。このような主流の意識が変わらない限り、第2第3の橋本は生まれるし、ユン氏のようなセクハラ事件は後を絶たないはずである。男性でも息苦しいこのような東アジアの同時マッチョ状況に対して、何とか有効な反撃をしていけないものだろうか。