今は

 
 時間が通り過ぎる時期。
 時間を通り過ぎさせなければいけない時期。
 この時間がいくら辛いとしても幸福であると。
 目の前の現実がいくら暗くてもそこには希望があると。
 遠くから忘れずに暖かい便りを差しのべてくれる人がいると。
 それらの人たちのために全力を尽くさなければならないのだと。
 持てる人生の時間には限りがあるとしても決して予め挫けてはいけないのだと。
 多くのことを喪ったとしてもまだ愛すべき人たちがそこにはたくさん存在しているのだと。
 連帯はいつでもどんな困難のなかでも可能なのだと。
 
 あるいは壊れた風景のなかにも赤い椿の花たちは咲いていたのだと。
 星たちも限りなく透明に光っていたのだと。
 太古からの空は 山々はそのままであったのだと。
 人間の思いと身体だけが壊れやすいものなのだと。
 でもその壊れやすい人間こそが愛おしいものであるのだと。
 その小さな喜びと思いといたわりは常に美しいものであるのだと。
  
 呟きながら 

 寒くて暗いこの夜を通り過ぎさせる。