震災の原風景

 
 年末ということも関係しているのか震災直後の記憶を思い出すことが多くなった。
 
 実際の震災直後には家族と自分の生存のために気を張り詰めていたので、そう辛くは思わなかったが、とても寒くて空腹で、そしてよるべなく孤独だったなと今になって思う。それは後から脚色した震災直後の心象風景なのだろうか。その当時は必死だったので、寒さもひもじさも孤独もそれほど感じる余裕はなかったはずであるから。でも後から震災直後の日々を思い返すと、ひどく寒くてひもじかった記憶、よるべのなかった記憶だけが鮮やかに残っている。それは震災の原風景である。今でもその震災直後のことを思い返すと、自動的に涙が出て来る。とても辛かったなという気持ちになる。先日、大学院の恩師のK先生からの手紙を受け取って、ひどくつらい気持ちになったのはその震災直後の記憶を刺激されたからに違いない。9ヶ月以上たって、多くのことが復興しつつあるが、まだ震災直後の風景のなかに佇んでいる人々もK先生はじめ多くいるのだと思うようになった。あるいは復興に立ち働く日々のなかでも実はその震災直後の心象風景はすぐそばにあって、いつでもその風景は回帰してくるのだと思われてきた。