奇妙な風景

 
 今日、日本と北朝鮮とが拉致被害者の再調査で合意したとのニュースがあった。北朝鮮が日本側の要求をのむ形での合意で、それに伴って日本の制裁措置を一部解除し、さらに人道支援や国交正常化の議論の可能性にまで言及したものである。
 
 外交的な利害が北と日本とで一致したと言うことなのだろうが、それにしてもこれは何とも奇妙な風景である。中国・韓国との関係悪化に伴って、日本が北朝鮮に接近したという印象はぬぐえない。東アジアでも外交のグレートゲームが始まるのかもしれない。
 
 これが奇妙な風景だと思うのは、われわれの世代などから見ると、戦後の国際秩序の最大の受益者であったはずの日本が、もっとも戦後秩序に不満を持っていると見られる北朝鮮と手を結びたがっている光景のことである。
 
 いつの間にか日本は戦後の国際秩序への不満の情念を持つ国家となり、戦後の国際秩序から見れば危険分子と言ってもいい北朝鮮やロシアと親和的になっている。この風景は奇妙であるが、どこかで見た覚えのある風景でもある。
 
 1929年の大恐慌以来、日本は満州事変で国際的な秩序を破って国際連盟を脱退し、同じく第一次大戦後の戦後秩序に不満を持っていたドイツと急接近した。今回の東アジアでの日本と北朝鮮との急接近はそんな記憶を蘇らせる。
 
 だからこの北朝鮮と日本との急接近は、ある意味で現在の国際秩序への否定のメッセージと受け止められかねない危険性を持っている。この一歩はどこにつながっていくのか、戦前のような「東亜新秩序」への一歩でないことを切に祈るばかりである。