チャンサンコンメ『おお!夢の国』(장산곶매 『오! 꿈의 나라』)

 さっそく昨日届いたチャンサンコンメの『おお!夢の国』を見てみた。1989年作品。1989年と言えば、ちょうど私が初めて光州に日本語教師として赴任した年だ。まさにその年に、光州事件を初めて本格的に扱ったこの映画が作られたことは、とても感慨深い。
 
 1989年と言えば、ちょうど北朝鮮に越北した作家たちの文学作品などの発禁が解除されたりしたころでもあって、韓国の社会全体が民主化・解放化に向かい始めていたころでもあった。民主化運動を担った386世代の登場する時期でもある。この映画にはそのような386世代の息吹が強く感じられる。
 
 何よりもこの作品は二つのタブーを正面から扱っている。一つはもちろん光州事件という政治的なタブーであって、もう一つはアメリカという国際関係的なタブーである。そしてその二つのタブーは、実は相互に強い関連を持っていることが映画を通じて明示されているのである。
 
 主人公の全南大学2年生であり、夜学の教師でもあるジョンスは、もちろん光州事件のタブーを担う存在であるが、彼が頼って行き仕事を手伝うことになる先輩のテホは、米軍部隊のPXの物資をブラックマーケットに流す闇商売をしている人物である。つまり彼はアメリカというタブーを正面から担っている存在なのである。
 
 ストーリーはこの二つのタブーを巡って、現在の米軍部隊とその周囲にむらがる男女たちのストーリーと、フラッシュバックされる光州事件の記憶とが、相互に絡み合う形で進行する。
 
 しかしより印象的なのは、アメリカというタブーの方であるのは間違いない。アメリカは光州事件への軍の出動を認めたことで、光州事件への加担者でもあり、またPXの物資を横流しし、韓国を経済的に従属化・植民地化していることも示されている。そして、より直接的にドルの力を背景として韓国女性を蹂躙し、その人生を破壊していることがジェニーの人生を通じて示されているのである。
 
 ジェニーは米軍を相手にしている女性だが、スティーブという士官の恋人となり、高価なプレゼントをもらったり、ついにはマンションを買ってもらったりもする。しかし、最後にスティーブは彼女を裏切り、マンションを売り払いアメリカへと突然帰国してしまう。彼女の人生は破滅し、彼女は自殺を図る。この展開は少し典型的すぎる気がするが、アメリカへの根深い不信感をよく表している。
 
 アメリカの存在なくして個人の生活も国歌の経済も成り立たないが、しかしアメリカに対して事毎に裏切られてきたという不信感が、描かれている。この依存と不振との両義性は、沖縄の基地のことを考えれば、日本でも理解することが可能である。
 
 韓国の民主化とは、だから一つは軍事独裁に対する民主化でもあったが、もう一つアメリカに対する自立・解放という側面を持っていたことを注意しなければならない。経済的・政治的なアメリカからの自立という問題が、民主化には伴っていたのである。
 
 私も含めて、その当時どうして韓国人たちがアメリカに対して反米的な感情をそれほど強く持っているのか理解しがたい部分があったが、この映画を見ることで、いくらかその背景は理解することが可能となる。アメリカと軍事独裁との結託、そして経済的な従属化という枠組みを突破することなくして韓国の民主化はありえなかったのである。
 
 日本がそのような意味で、反米的な左翼運動を持ちえず、アメリカの影の下に今もなお存在していることは、韓国のこのような映画を見ると対照的な鏡のように思われてくる。反米と親米との両義的な鏡。その中に日本も韓国もいるのである。韓国の民主化はそのことを露わにしてくれたのである。
 
 http://d.hatena.ne.jp/masatosano/edit?date=20110902